谷中の桜を見にゆく

2014年4月4日撮影

 2014年4月4日、谷中墓地へ桜を見に行った。 ここは比較的自宅から近い場所で、歩いても片道30分ほどで行ける。 時々フラッと散歩に行くこともあるが、今回は花見が目的なので電車に乗って行った。 最寄り駅は日暮里駅でJR線、京成線、日暮里・舎人ライナーの3線が利用できて便利である。
 谷中墓地の桜は有名である。だが私は地理的に近いにもかかわらず、 1度も見に行ったことが無かった。気にはなっていながらも、 桜を見に行く時は上野公園に行くことが多かった。 上野では学生時代にアルバイト先の人たちと花見をしたこともある。 見に行くと桜がきれいで、毎年その桜の下では大勢の人たちがお酒を飲み、 料理を食べ、宴会をして盛り上がっている。
 谷中墓地ではどうなのか。人から聞いた話だと、谷中でも花見の宴会をやっているという。
(えっ!墓地で酒を飲んで騒いでいるのか?)
私のイメージだと墓地は不気味で怖いというイメージがある。 それは子供の頃にテレビで心霊特集などを見て、墓地に幽霊が出てくる映像を見た影響なのだろう。 今考えると、それらはすべて嘘で作り話だったのだろうが。 現在テレビではそのような番組はやらなくなったようだがなぜだろう。

 私は幽霊というものは見たことがないが、少し不思議な体験ならしたことがある。 それはこの谷中墓地での出来事である。あらかじめ言っておくがたいした怖い話ではない。
 私は歴史が好きなため、いろいろな名所、旧跡、遺構を見て歩いているのだが、 徳川慶喜公の墓所が谷中墓地にあることを何かで知り、そんな近くにあるのなら一度見てみたいと思い、 谷中墓地まで行ってみたことがある。行ってみるとこの墓地は広く、著名な人物の墓も多くあり、 慶喜公の墓所だけが目立つようなこともなく、どこにそれがあるのかよくわからない。 だが親切なことに、どこに誰の墓があるのかという案内板が墓地の所々に設置してあり、 それを見て慶喜公の墓所があると思われる方向へ歩いて行った。
 墓地内に入ると迷路のようになっていてなかなかたどり着けず、いろいろな所を歩き回ってしまう。 しばらく歩いていると、目の前の十字路に一匹の猫がうずくまっているのが見えた。 その猫は目こそ合わせないが、私の方を向いてニャーニャーと鳴いている。 この時点で少し不気味に感じたが、猫ぐらい東京ではめずらしくないので、あまり気にせず歩き続け、 その十字路で左に折れた。
すると私の体の右側を
(タタタタタッ!)
と何かがもの凄い速さで駆け抜け、前を横ぎり、左斜め前方の所にうずくまった。さきほどの猫である。 やはり私の方を向いて、今度は力強くニャーニャーと鳴きはじめた。 明らかに私に対して何かを伝えようとしている。ここへは来るな、 この先には進むなと言っているようにも思える。 単純に猫が自分の縄張りを守ろうとしているだけなのかもしれないが、場所が墓地の中で、 時間は夕方に近く、暗くはなっていないが日が落ちはじめている。それらが怖さを助長して、 自分の目には見えないが、何か霊的なものがそこに居るのではないかとさえ思えてくる。 怖くなったのでその先に進むのをやめて、来た道を引き返した。

 そんな谷中墓地で本当に宴会なんかやっているのかと思いながら現地に行くと、 最初に気になったのは外国人観光客の多さである。 普段からこのあたりは外国人をよく見かけるが、桜のシーズンだからなのか、 今日は特に多いように思える。日本人も平日の昼間だがけっこういる。 年配の方が多いかもしれない。
 最初に中央園路の桜を見た。 中央園路とは五重塔跡の公園や駐在所がある通りのことだが、 地図で確認してみても通りの名前は記載されていない。
 実際の谷中の桜は思ったよりも迫力がある。 通りの両側に桜の木が並んでいて、それが高く伸びているため頭上まで桜で覆われていて、 トンネルのようになっている。咲き具合もちょうど満開で見ごろと言った感じだ。 散った花びらは車道を点々と彩り、 墓地内の通路にも花びらが積もって桜のじゅうたんのようになっている。
 そして気になっていた宴会だが、それらしいものは見当たらない。 普通に歩きながら見ているか、あとはベンチに座って見たり談笑したりしている。 後日調べたところによると、今年からここで宴会をやることは禁止になったようだ。 なので宴会、飲食、場所取りなどの禁止を促す看板が、所々に立てられていた。

 中央園路だけでなく墓地の中にも入ってみる。 かなりいろいろな所に桜は植えられていて、 ポツンと1本だけ植えられている所もあり、それはそれで美しさがある。 隅々とまではいかないが大体見どころは見た。 ついでに著名な人たちの墓を見たりして、墓地の中を歩いていると強い風が吹いてきて、 それが先ほどまでとは違い冷たくなってきた。 空を見ると晴天だったものがだんだんと暗くなりはじめている。 これは雨が降りそうだと思い、このあたりで散策はやめて帰ることにした。
 日暮里駅に向かって歩き出したが、ちょっとだけ一息ついて水でも飲みたい。 五重塔跡の公園に立ち寄りベンチに腰掛け、カバンに入っていた水を取り出して飲んだ。 するとまた強い風が吹いてきて、桜の花びらがあたり一面に舞った。 桜吹雪だ。客観的に見ればこれほど美しいものはない。
 桜吹雪を浴びながら水を飲み、公園をあとにする。 日暮里駅から電車に乗り家へと帰った。家に着いてからしばらくすると、 外から雨の音が聞こえてきた。昼間はあんなに天気が良かったのに。 雨が降り出す前に晴天の空の下で、谷中の桜を満喫することができて本当によかった。